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PERFORMANCE

包括的アプローチによるプログラムマネジメント

Performance 包括的アプローチによるプログラムマネジメント
プログラムマネジメントが有効に機能していれば、具体的かつ測定可能なベネフィットが得られるはずです。
ところが実際には、多くのプログラムで、期待をはるかに下回る効率しか実現できていません。
今日のプログラムマネジメントが繰り返し似たような問題に直面しているなか、テクノロジーの進化によって、多額の費用を必要とする複雑なプロジェクトは、ますます増加の一途をたどっています。
本稿では、プログラムマネジメントに包括的アプローチを導入することによって、典型的な落とし穴を回避し、プログラムの成功率を高める方法を説明します。

著者:
EY US, アドバイザリー-パフォーマンスインプルーブメント
Senior Manager, Ian Finlay
Senior, Matt White
Senior, Raymond Valbuena
Senior, Sejal Thakker
和訳監修:
EYアドバイザリー株式会社
シニアマネージャー 小林 宏之
マネージャー 西田 大志

プロジェクト/プログラムマネジメントは数千年前から行われており、古くは紀元前2570年のギザの大ピラミッドまでさかのぼることができます。

しかし、定型化された手法やテクニックがプロジェクトマネジメントに用いられるようになったのは、クリティカル・パス・メソッド(CPM)が開発され、米国プロジェクトマネジメント協会(PMI)が設立された1950年代、1960年代以降のことです。1

テクノロジーや市場が進化し、プログラムが複雑性を増すにつれて、同時並行で進む作業を追いかけながら、大規模プログラム全体を見通すことはますます困難になっています。ビジネスが変化するスピードに対処するために、プログラムの数、複雑さ、コストは大幅に増加していますが、半数を超える企業エグゼクティブが、大規模なプログラムを適切に遂行できないことが事業拡大の足かせになっていると考えています。2

テクノロジーによってプロジェクトの実施における課題は一掃されると言われています。しかし図1は、今日の組織が直面している問題が、プログラムマネージャーやプロジェクトマネージャーといった職業が誕生した当時と変わっていないことを示しています。

問題1: プログラムの透明性の不足

多くのエグゼクティブが、プログラムを十分に把握できない、または信頼できる単一の情報源にアクセスできないという状況に置かれています。最新の正確な情報を容易に入手することができなければ、プログラムの現状を正しく判断した上で意思決定を行うことは困難です。

問題2: 一貫性と連携の不足

プログラムに一貫性がなく、チーム間の連携が取れていないために組織の効率が低下することは珍しいことではありません。事実、部門横断的なチームの75% 弱は十分に機能しておらず、5つの領域(予算順守、スケジュール順守、仕様への適合、顧客の期待の達成、企業目標との整合性の維持)のうち、少なくとも3つの領域で失敗しています。3

問題3: 自信と敏捷性の不足

最新の正確な情報を確認できないため、多くのエグゼクティブが事実に基づかない判断を迫られています。報告が届くのを待っている間に、判断のタイミングを逃すこともあります。このために、プログラムエグゼクティブは上層部に約束した目標を達成する自信を持てないことが少なくありません。

図1. プログラムマネージャーが直面している課題

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包括的アプローチがもたらすソリューション

上記のような問題を軽減し、プログラムの成功率を高めるためには、より包括的なアプローチでプログラムマネジメントに取り組む必要があります(図2参照)。プログラムの初期段階で、意思決定を容易にするようなガバナンス構造を構築すること、プログラムを確実に実施するためのプロセスを整備すること、ステークホルダーの連携を促し目指すベネフィットの実現を支援する共通のテクノロジープラットフォームを構築することはその一例です。

図2. プログラムを円滑に実施するためには、3つのキー要素をバランスよく融合させることが必要

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強固なガバナンス構造は連携と成功の土台です。
プログラムに参加するメンバーが自分の果たすべき役割をはっきりと理解することができるからです。

ガバナンスから始める

大規模なプログラムに取り組むときは、まず強固なガバナンス構造を構築する必要があります。その際は、関連するすべてのプログラムとポートフォリオについて、役割、責任、意思決定の権限を明確にすることが欠かせません。

強固なガバナンス構造があれば、意思決定が容易になるだけでなく、説明責任の所在も明確になります。図3は、適切なガバナンスが構築されているプログラムでは、上層部が最も高い権限を持ち、日常的な意思決定の大半はプロジェクトレベルで行われることを示しています。プログラムレベルで下された決定が上層部によりサポートされていることがわかっているので、プロジェクトマネージャーは個々のプロジェクトの成功に注力できます。一方、プロジェクトレベルの決定はしかるべき担当者が下せるようにすることで、プログラムリーダーも時間とエネルギーを節約するこができます。

適切なガバナンス構造があれば、プログラムと組織全体の戦略・イニシアチブを連動させることも可能です。ガバナンス構造が確立されていれば、組織が戦略上の方向性を変更したときや、新しい施策を導入したときも、それに合わせてプログラムの優先順位を変更することができます。例えば、企業の予算に変更が生じた際は、プログラムのエグゼクティブリーダーシップは経営陣と連携して、予算に合わせてプログラムのスコープを拡大または縮小し、その判断を指揮系統に沿って関係者に伝えることができます。

また、プログラムの規模が大きくなり、参加するグループやベンダー、パートナーが増えた場合も、ガバナンス構造があれば、新しいメンバーがどのようにコミュニケーションをとり、意思決定すればよいかを明確に示すことができます。強固なガバナンス構造は連携と成功の土台です。プログラムに参加するメンバーが自分の果たすべき役割をはっきりと理解することができるからです。新しいプロジェクトマネージャーは誰に報告すればよいかを理解し、新しいベンダーはプログラムの意思決定権限が誰にあるのかを迅速に把握することができるでしょう。

図3. ガバナンスモデルにおける定性的・定量的コントロール

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プログラムマネジメントプロセスが構築されていれば、コミュニケーションや情報共有は自然に行われます。コミュニケーションの問題を解決するために何度も会議を開く必要はありません。

プロセスを利用してパフォーマンスを改善する

プログラムマネジメントプロセスは、プログラムを一貫性のある体系的な方法で運用するためのガイドラインです。このようなプロセスが組織内に構築されていれば、コミュニケーションや情報共有は自然に行われます。コミュニケーションの問題を解決するために何度も会議を開く必要はありません。また、プログラムの標準化により、プロジェクトマネージャーと上層部双方に相互の説明責任の遂行を促すことができます。

プロジェクトマネージャーは、プログラムマネジメントのプロセスを使って、上層部が承認した業務の計画と実行を管理します。チームが解決できない問題に直面したときは、あらかじめ定められたエスカレーションの経路に沿って上層部に支援を求めます。一方、上層部はプログラムマネジメントプロセスを使ってプロジェクトのポートフォリオを管理します。例えばレポーティングのプロセスは、上層部がプロジェクトのKP(I KeyPerformance Indicator: 主要業績指標)を把握できるようにする一方で、プロジェクトのベネフィットを実現する責任をプロジェクトマネージャーに負わせることになります。

こうした双方向の説明責任関係が機能するためには、プログラムマネジメントプロセスが組織に根付いている必要があります。そのためには、適切なチェンジマネジメントの手法を取り入れ、組織が変化を受け入れられるようにしなければなりません。プログラムを支える人々のスキルとテクノロジーを適合させ、段階的にプロセスの成熟度を高めることで、プロセスは組織に根付きます(図4参照)。高度なプロセスを導入しても、プログラムチームにそのプロセスを利用できるだけのスキルセットやテクノロジーがなければ、チームに大きな負担をかけることになります。一方、貧弱なプロセスしかなければ、リスクを事前に緩和できず、トラブルが起きてから受け身で反応することになり、手に負えない問題を引き起こす可能性があります。

テクノロジーを使ってプロセスの流れを自動化すれば、プロセスの成熟度をさらに高めることができます。自動化は人為的なエラーを減らすため、結果として一貫性が向上し、標準化が進みます。さらにダッシュボードを活用すれば、プロセス間の連携を強化し、透明性を高めることも可能です。

図4. プログラムマネジメントのプロセスの成熟度

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ガバナンス構造が確立されていれば、組織が戦略上の方向性を変更したときや、新しい施策を導入したときも、それに合わせてプログラムの優先順位を変更することができます。

テクノロジーを使ってオペレーションを効率化する

今日の組織は大量の情報やデータにあふれていますが、ツールやテクノロジーを活用すれば、これらの情報を分析し、意思決定に役立つ有用な情報を引き出すことができます。

しかし、ツールとテクノロジーさえあれば、すべてが解決するわけではありません。あまりにも多くのプロジェクトマネージャーやプログラムマネージャーがテクノロジーを過信し、レポートや図表によって失敗プロジェクトを救うことができると思い込んでいます。ツールを活用するためには、適切なプロセスと人材が必要です。多くの組織が何百万ドルもの資金をツールに費やしながら、チェンジマネジメントの失敗、プログラムマネジメントプロセスの未整備、チームメンバーの専門知識やスキルの不足といった理由から、これらのツールを有効に活用できていません。

これらのツールが適切なトレーニング、プロセス、人材と組み合わさったとき、組織は適切な判断を迅速に下し、チームは目指す成果を達成できるという自信を持つことができるようになります。図5は、適切なテクノロジーを導入することで、洞察をもたらす分析、透明性の高いコミュニケーション、シームレスな連携、有用なレポーティング、そしてタイムリーな情報提供が可能になることを示しています。

図5. 適切なテクノロジーは、強力なガバナンスと共通プロセスがもたらすメリットを増幅させる

(下の図をクリックすると拡大します)


成功の条件


  • 明確な最終目標:  大規模かつ複雑なプログラムマネジメントやソリューションに取り組む際は、まず最終目標を定義し、それを常に意識するようにします。プログラムマネジメントに関する限り、すべてのプログラムに適用できる万能のソリューションはありません。必要とされることが何かによって、ソリューションの内容は変わってきます。
  • シンプルなソリューション:  プログラムマネジメントソリューションに必要以上の機能を盛り込むことは、実施自体が困難になるので避けるべきです。
  • 有効なチェンジマネジメント:  どのようなプログラムマネジメントソリューションを導入するにせよ、チェンジマネジメントを避けて通ることはできません。企業は自社の状況に合わせて、時間をかけて、社内のプロセス、テクノロジー、人材のスキルレベルの成熟度を上げることに注力する必要があります。
  • 制約事項の認識:  プログラムマネジメントソリューションを導入する前に、さまざまな制約事項が存在しうることを十分に認識し、意識するようにしましょう。そうした制約事項は、リソースや財務面のものから、組織のプログラムマネジメント能力の欠如まで、多岐にわたります。

 

まとめ

  • プログラムマネジメントへの包括的なアプローチには、ガバナンス、プロセス、テクノロジーのバランスが必要です。
  • 強固なガバナンス構造が構築されていれば、意思決定の系統がはっきりし、プログラムを効果的にマネジメントできます。
  • 効率的なプロセスは、プログラムの実施を標準化するだけでなく、プログラムの進化に合わせて成熟していきます。
  • テクノロジーを有効に活用するためには、人々が十分な知識を持っていることと、合理的なプロセスの両方が必要です。

プログラムマネジメントが有効に機能するためには、連携とコミュニケーションが不可欠です。

【脚注】