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デジタル時代のサプライチェーンイノベーション

Performance デジタル時代のサプライチェーンイノベーション
新たに登場したデジタル技術はあらゆる業界に破壊的なインパクトをもたらしています。競合企業や新規参入企業は、従来とは全く異なった手法で業務を運営し、新技術をより迅速、かつ、巧みに取り入れています。このトレンドは、旧来企業のサプライチェーンに対してますます大きなプレッシャーを与え、サプライチェーン管理、サプラチェーン戦略の抜本的な再考を迫っています。

著者:
EYドイツ Digital Strategy & Transformation
マネージング・パートナー Dr. Mervyn G. Maistry
マネージャー Christian Neumann
和訳監修:
EYアドバイザリー株式会社 SCMチーム
シニアパートナー 羽柴 崇典
ディレクター 浜辺 啓明

EYの2015年度のレポート1によると、「デジタル化された未来」は21世紀のメガトレンドです。ソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータ、情報への即時アクセスに対する需要の高まり、デジタル技術、全てのモノのインターネット(Internet of Everything(IoE))が津波のように一つになって押し寄せ、ビジネスと日常社会の両面で組織に破壊的変化を与えています。

上場企業において、デジタルによる破壊的インパクトは明らかです。2000年以降、フォーチュン500選出企業のうち52%が姿を消しました。2 2012年時点で企業がS&P500インデックスにあり続ける平均期間は18年間でしたが、これは1958年時点での61年間や、1980年時点での25年間と比べて大幅に減少しています。3 このトレンドは、身近に入手できるデジタル技術の性能向上によりさらに加速するでしょう。2018年までには多くの業界の上位20社のうち3分の1が業界固有のデータ・プラットフォームの変革に大きな影響を受ける事になると考えられます。4

消費者も意思決定に大きな影響を及ぼす各種情報(購買、医療サービス、気候変動、労働条件、人権関連など)へのアクセスが可能となるため、その動向が変わりつつあります。モバイル端末を介しての消費者支出は2018年までに、現在の3倍の626億USドルとなり、eコマースの売上と利益の約半分を占めるようになるでしょう。5今や約80%もの企業が、消費者のモノ・サービスへのアクセス方法が変化していることを認識しており、うち51%以上の企業が価格とデリバリーモデルの変更に着手しています。6

このような変化は、すべてのビジネスにおいて来るべき未来への準備が必要であることを示しています。
例えば、

  • 冷蔵庫が食料品を注文し、家電が家計効率を計画する
  • 製品が必要な場所/時に応じて3Dプリンタで製造される
  • 医療系専門職に頼ることなく自身の健康状態をモニタリングする
  • 現在のビデオと音楽のように、あらゆる製品がデジタル化され、スマートデバイスとなる
  • 工場が、どの製品がどの部品を必要としているかを本来的に分かっていて、製品が故障しそうな時期を予測することもできる、インテリジェンスをもった資産ネットワークとして活動する
図1. ビジネスとサプライチェーン戦略の統合

(下の図をクリックすると拡大します)

デジタルがサプライチェーンに与える影響

こうした変化の根底には、膨大な情報が手頃な価格で利用可能になったという事実があります。情報は今や、将来の成功に必要な栄養素を運ぶ時代のライフラインを流れる血液となりつつあります。そして、不可欠な「血液」である情報やテクノロジーに支えられたダイナミックなビジネス戦略に加え、統合されたサプライチェーンを築けるかどうかが将来の成功を大きく左右することとなるのです。(図1を参照)

弾力性のあるダイナミックで俊敏な将来のサプライチェーンは、従来通り資金・製品・情報を供給し続けると思われますが、デジタル技術がバリューチェーン全体に与える影響により、製品やサービスの設計そのものと不可分なものになっています。

経営陣はこのことを理解していますが、ケイパビリティの不足のために無力であるのが現状です。近年の調査では、経営陣の80%が「デジタルオペレーションは競争優位を推進する上で不可欠な要素である」と考えているにもかかわらず、87%が高度な「デジタルケイパビリティ」を有していないと認めています。7 また他の調査では、企業は現在生成されている顧客データの約80%を活用できていないとされています。8 デジタルケイパビリティが将来へ向けた重要なドライバーとして認識されている一方で、今日のサプライチェーンを担う経営層は、デジタル技術と新しいビジネスモデルをより戦略的なサプライチェーンに組み込むことよりも、まずコスト削減の推進に注力しています。それは240億USドルからなる業務コンサルティング市場の存在からも明らかです。9

コスト削減と効率化は、今後も経営上層部の業績評価における重要なテーマであり続けることになるでしょう。しかし、デジタル化された世界ではそのことにこだわり過ぎることで、会社全体に不利益を及ぼす可能性もあります。サプライチェーンマネージメント(SCM)はこれまで成功要因か、事業業績への脅威のいずれかとされてきました。実際に、SCMが機能していない場合は、株価は9%も下落する事態が広く見受けられます。10 逆に効果的なSCMを持つ企業は、ダウ工業株30種平均(DJIA)の6%やS&P500の3.5%に対し、18%もの総資産利益率(ROA)を達成しています。11

そうした直接的な財務数値のみならず、人々が入手できる情報が広がることで、サプライチェーンが、消費者に、ひいては企業の評判に対して与える影響が大きくなっています。近年では、新聞の見出しを賑わすケースも増えています。サプライチェーンのほんの一部にしか関わっていない企業でも、ニュースは即座に世界中に拡散され、大企業のイメージを毀損するというリスクに晒されてしまいます。これは、広範囲に及ぶサプライチェーンが企業のコアブランドに影響を及ぼすということを証明しています。

そうした例の一つに、2013年バングラディシュ、ダッカでのラナプラザビルの崩壊があります。亡くなった1100人もの人々の多くは、著名なブランドに対して衣服を供給する工場で働いていました。12 大惨事のニュースがソーシャルメディアや従来のメディアを通じて拡散された時には、当該小売業者の社会的責任が厳しく調査対象とされました。情報が拡散されやすい状況の中で、購買意思決定に影響を与える情報が、かつてサプライチェーンの中の遠く離れた一点に過ぎなかったものを、そのブランドにとって非常に実質的な意味をもつものへ変えてしまった例です。

2022年までに、デジタル技術がサプライチェーンと物流へ与える影響は2.7兆USドルに達すると見積もられていますが13、デジタルによってもたらされる影響の大きさを知るためにわざわざ未来に目を向ける必要はありません。事実、数年前には、オンラインの小売業者が、1時間弱続いたサイト障害によって、約6億ドルの売り上げを失っています。こうした例は、音楽やビデオのようなデジタル化された製品だけでなく、デジタル時代において情報により高い価値が付加された物理的製品も例外でないことを表しています。情報は、デジタル経済において物理的製品を作り上げる主要構成要素となるでしょう。

デジタルに支えられたエコシステムの出現

伝統的な企業は、重厚な既存の資産基盤に縛られている一方で、新興企業が過去からの課題を抱えずに事業を発案し即座に行動するのを傍目に、イノベーションのジレンマと苦闘しています。(例えば、既存事業を維持・拡大するか、それとも新規領域へ参入していくかをどう選択するか等)

既成の多国籍企業は、新興企業の革新的な資源やデジタルイノベーションの優位性を活用しないことで、競争上不利になるということを学んでいます。現実に企業は、新世代のサプライチェーンにおける破壊的イノベーションによって衰退の危機に晒されています。例えば、スマートフォンを活用した配車サービスのウーバー(Uber)、空室シェアのエアービーアンドビー(Airbnb)、ストア・ファクトリー・コンセプトの活用を検討しているアディダス(Adidas) などが挙げられます。14

自動車業界では根本的な(モビリティがサービスへと進化するトレンドのような)サプライチェーンの破壊が起きています。この例は、アメリカの自動車会社ローカルモーターズ(Local Motors)の成功に見て取れます。ローカルモーターズ社は、設計から市場投入までの期間が業界平均で5年から7年かかっていたのを、18か月以内にまでに短縮させました。15 この米アリゾナの自動車メーカーは、デジタル技術により自動車マニアのグループを自動車設計に巻き込み、マイクロファクトリーと呼ばれるカスタム生産工場で購入者と共にカスタムカーの製造を行うことで、納期短縮を実現しました。このようにローカルモーターズ社はクラシックなサプライチェーンモデルを、自立した供給エコシステムへと飛躍させたのです。(図2を参照)。新たな供給エコシステムが自動車業界で競争優位となるかどうかの判断は時期尚早ですが、他の業界においては、エコシステムを重視する企業の業績は業界平均を大幅に上回っています。極めて競争の激しいファッション小売業界において、ザラ(Zara)は際立った情報主導型のアプローチによりカスタマー・インティマシー(顧客との親密さ)を実現しています。このスペイン発祥の企業は、サプライチェーンを通じ製品デザインナレッジを統合することでこれを達成しました。
具体的に以下のようにです。

  • 変化する消費者の好みに合わせるため、情報と洞察を、製品デザインに即座に反映。これはファッションの好みが変わるリスクの中、余剰在庫を最小限に抑えます。
  • 設計、生産、流通に渡り、効率的で、デジタル化され、垂直統合されたサプライチェーンの運営。この結果、デザインから店舗販売までを6週間のリードタイムで実現することが可能となりました。
  • 一定の製造をスペインで維持し続けることによる(これにより市場への素早い提供が可能となります)、週に2回の店舗への配送と、顧客のフィードバックのデザインシステムへの迅速な反映。
図2. 自動車サプライチェーンモデルの利点

(下の図をクリックすると拡大します)

サプライチェーンのリーダー、その率いる企業、および、そのキャリアにとってこれが意味する事は

サプライチェーンを司る経営陣は、「デジタル化された未来における自分たちのバリュー・プロポジション(提供価値)は何か?」と自らに問う必要があります。EYは、経営者たちは、下記の両極の間に自社を位置づけるだろうと考えています。 

  • 「農耕タイプ」
  • 「狩猟タイプ」

農耕タイプは、数量、場所、タイミング等の観点から生産フローの最適化に集中し、最低価格を実現するためにグローバルに調達を行います(従来の自動車業界やファッション小売業界がこれに当たる)。コスト削減と最適化の間の折り合いを定義する戦略的なアプローチによって、無駄を無くし効率化を追求することに注力します。

狩猟タイプはカスタマーロイヤリティを満足させ、エコシステム内の関係構築と維持に焦点を置いています。ザラやローカルモーターズがその例です。そこではサプライチェーン全体で情報を統括、活用し、サプライヤーやパートナーのエコシステムを自らのサプライチェーンで管理することにより、新製品開発における、顧客とサプライヤーの広範囲なネットワークを統合しています。競争優位と利益最適化に重きを置いた戦略方針です。

先のバリュー・プロポジションに関する問いへのサプライチェーンリーダーの回答として、どちらか一方の極端なポジションに自社を限定するべきではありません。企業は、両方の側面を往々にして、同程度に持つべきなのです。

今後、サプライチェーンリーダーのキャリアでは、以下の能力が問われます。

  • 自社のバリュー・プロポジションのための、適切な費用対効果を見極める能力
  • 創造的なイノベーションとスタートアップ活動に関与し、新たなイノベーションを迅速に評価するケイパビリティを培っていく能力
  • 企画推進能力と、新しいイノベーションの有効性を確認するためのプロトタイプ作成の能力
  • サプライチェーンエコシステムを貫く情報基盤を構築し、戦略的意志決定のためにサプライチェーンアナリティクス技術を用いて、情報から最大限の価値を引き出す能力
  • サイバーセキュリティやサイバー・レジリエンスを欠いた情報主導型ビジネスモデルは成長を妨げ持続不可能であることを認識し、効果的な情報セキュリティメカニズムによりサプライチェーンを保護する能力
  • 自社従業員に欠けているデジタルケイパビリティとスキルセットを特定し、新たなスキルを採用し、積極的に教育を行う能力(サプライチェーンアナリティクスやデータアナリティクス、IoT、拡散したエコシステムの管理等のスキルセット及びケイパビリティ)
  • 何が知的財産となるかを定義し、また、これを管理できるのは誰かを見極める能力
本稿執筆につきご協力頂いた以下の方々に謝意を表します。
EYドイツ Performance Improvement アドバイザリーサービス,
パートナー Frank Jenner
エグゼクティブディレクター Boris Reuter

【監訳注】

  • 農耕タイプ」、「狩猟タイプ」について、英語版原典では"Order Qualifier"( 顧客からの受注獲得に当たって検討の対象となるための基準項目)、"Order winners" ( 顧客からの受注獲得の決定要因となる基準項目) という用語が使われています。和訳において、文脈に即した訳語として比喩的な表現に置き換えました。

【脚注】


記事元(英文):
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