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顧客生涯収益:いかにして優良顧客と共に成長するか

Performance -顧客生涯収益:<br>いかにして優良顧客と共に成長するか
長期的に安定して収益を獲得するカギを握るのはカスタマーリレーションシップへの投資です。顧客ライフサイクルや顧客生涯収益(CLP)の考え方に基づく顧客戦略の立案がこれを現実のものとします。

著者: EY オーストラリア事務所 アドバイザリー パートナー Jenny Young
和訳監修: EYアドバイザリー株式会社 パートナー 吉本 司

顧客志向になることが企業の収益性の向上やコスト削減に繋がる、これが顧客生涯収益(CLP)の根底にある中心的な考え方です。

長期的で収益性の高いカスタマー・リレーションシップの構築は、全てのビジネスにおいて重要です。消費者は長く付き合える、信頼できるブランドやサプライヤーを積極的に比較しており、市場の競争がますます激しくなっています。

顧客生涯収益(Customer Lifetime Profitability; 以下「CLP」)の基本は、カスタマー・リレーションシップをいかに構築し、育成していくかということです。そこでは、顧客からもたらされる利益をどのように測定するのか、顧客の生涯に渡る収益やコストをどう認識するのか?等を検討する必要があります。

収益性の高い(または低い)顧客層について正しく認識している企業はそれほど多くありません。正しい理解ができている企業は、収益性の高い顧客層を獲得・維持し、収益性の低い顧客や採算の取れない顧客の収益性を高める戦略を導入できます。こうした企業は、より効率的に利益を伸ばし、効果的に投資して新たな顧客を獲得しています。

顧客軸を収益・費用のマネジメントの中心におくことで、企業は意思決定の軸足を顧客のニーズに置けるようになります。その結果、カスタマーエクスペリエンスの向上から生み出される「良質の利益」を獲得できるようになります。

顧客価値の真の意味とは?

顧客生涯価値という概念はすでに何年か議論されてきましたが、EYの認識では、実に多くの企業が自らの事業に占める提供コスト(cost-to -serve)について正しい理解ができていません。顧客志向になることが企業の収益性の向上やコスト削減に繋がる、これがCLPの根底にある中心的な考え方です。

将来の自社像を真剣に考えている企業は、EYのコンサルタントと共にCLPを拡大し、より高い価値をもたらす顧客の獲得・維持(この「維持」が特に大切)に取り組んでいます。CLPモデルの狙いは顧客数の最大化ではなく、高い価値をもたらす長期的なカスタマーリレーションシップの構築にあります。その結果、企業にはCLPによって生み出される良質な財務成績と優良な顧客満足度がもたらされ、その満足度がまたCLPに反映されていくのです。

CLPの基礎にあるのはデータです。ごく最近まで顧客行動について明確で包括的な考察を行うことは非常に困難でしたが、今日ではリサーチやビックデータ、ソーシャルメディアのおかげで詳細な顧客プロファイリングができるようになりました。その延長線上にあるCLPはこうした新しい考察によって生み出される考え方・尺度であり、その手法は顧客行動を明らかにして、更に将来の顧客行動を予測します。

とはいえ、ビッグデータの急成長はそれ自体に課題をもたらしています。現在、多くの企業がデジタル情報過多の危機に直面しています。ビッグデータのなかに売上拡大のチャンスは確かにあります。しかしそれは、具体的にどの情報の関係性が最も強く、最も高い価値を導くのかを着実かつ継続的に特定できる企業に限定されるものであって、このようにビッグデータを活用できない企業はやがて、情報に振り回され、結果として業績の悪化を免れないでしょう。

現代のビジネス社会に大量に流入しているデータは、顧客行動における非常に詳細なインサイトを提供します。また、そのインサイトはリアルタイムで更新されるため、これを活用する企業もこれに連動して対応する必要があります。

マス・マーケティングよりもOne-to-One(ワントゥワン)マーケティングに力を入れる企業が増え始めて一定の期間が経過しましたが、One-to-Oneマーケティングでは、顧客一人ひとりのためにパーソナライズされたソリューションに焦点を当てるインサイトと、トリガーベースのシナリオを利用した「ネクストベストアクション(訳注:顧客アクションの仮設)」を組み込んだアナリティクスを活用します。顧客ニーズの先取りは顧客体験を改善するだけでなく、顧客とのエンゲージメント構築において強力なツールとなるのです。

「多くの企業がCLPへの投資を強化することで、現在の顧客理解を強化するだけでなく、将来の顧客ニーズの予測が可能になると気付き始めています。」、EYはそのサービス提供の過程でこのような発見をしています。

CLP利用による業績改善

CLPは、組織の顧客基盤に内在する利益を示す考え方であり、一人ひとりの顧客の生涯を通じて発生する未来のコストと収益も考慮に入れています。CLPモデルの導入によって企業は、最も収益性の高い顧客や顧客セグメントの成長と維持のために、企業の資源を集中できるようになります。
CLPアプローチの導入には次のようなメリットがあります。

  • 顧客からもたらされる収益の最大化
  • 市場パフォーマンス(競争力)の改善
  • 生産性向上と結果としての業績改善
  • 顧客満足度の向上
  • 販売・マーケティングの最適化
  • ITに代表されるインフラ関連の投資等の意思決定精度の向上

図1.CLPマネジメントを通じた業績改善

(下の図をクリックすると拡大します)

CLPのメリットを最大限生かすためには、企業の既存システムを進化させる必要があることは明白です。これらが意味するものは、典型的にはCRMシステムの改善、顧客データの収集・分析能力の改善、そして何より重要でもある、CLPアプローチがもたらすゴールへの組織全体の集中です。誰が顧客なのかを詳細なレベルで知ること、自分たちがどの顧客セグメントをターゲットにしているのかを理解するといったポリシーは、組織全体がコラボレーションして取組む際の全社行動規範である必要があります。

また、収益性の最適化には別な側面も存在します。CLPの最終的なゴールが製品やサービスの販売のみではなく、好意的なカスタマーエクスペリエンスの提供を意味する、ということについて認めることもまた重要です。例え短期的には商業利益を生み出す要素がなかったとしても商品的な価値・魅力の存在が優れた顧客サービスなのだ、ということに気付かせることがCLPの重要な要素でもあります。

図2.顧客収益性成熟度モデル

(下の図をクリックすると拡大します)

ソーシャルネットワークが顧客にもビジネスにも重大になりつつあることを、多くの企業は未だに認めようとしていません。

ソーシャルコマース文化の活用

Conversocial1の直近の統計によると、Facebookは13.5億人、YouTubeは10億人、Google+は5.4億人、Twitter は2.84億人、Instagramは2億人、LinkedInは1.87億人のアクティブユーザー数を有するまでに膨れ上がっています。

Conversocialは次にように結論付けています。「現在の情報の流れ・チャネル間の反乱はまるで無数の車が複数車線の高速道路を乱れ走るようなもの。企業は新しい戦略を立てて、これを整備されたサービスチャネルの高速道路へと変えていかなければなりません。組織において人々の行動を方向付けるのは文化であって、その影響力はガバナンスやポリシーよりも強いものです。ソーシャルメディアは、企業と顧客との関わり方をコントロールする能力を顧客側に与えました。今の企業の責務は、その変化に対して自らの文化を適応させること、あるいは新しい現実に合った全く新しい文化を構築することです。」

ソーシャルメディアは想像以上に重要なチャネルになりました。しかし、ソーシャルネットワークが顧客にもビジネスにも重大になりつつあることを、多くの企業は未だに認めようとしていません。問い合わせ先にソーシャルメディアを選ぶ顧客は増えています。こうした一面はCLPの成功に非常に大きな影響を与えるため、顧客とのやり取りは包括的にサポートされる必要があります。

EYが支援してきた企業の中で、特に成功を収めている企業では、顧客に対する共通のポリシーが存在します。ここで重要なポイントは、「サイロ化された顧客対応の回避」と、これに代わる「総合的且つ統合・整合された視点・対応の推奨」です。そこには、顧客戦略が総合的かつ統合されていることを確保するための強い企業内の意志が存在します。加えて、顧客に向けられたサポートは、一元的な顧客戦略・アプローチによって方向付けられたうえで、複数のチャネルが整合・統合されて展開されているのです。

EYが共に仕事をする多くの企業にとって、顧客を満足させるために全社的に統合された視点を持つことは言わばチャレンジです。CLPにおいて期待される成果を継続的に実現するためには、企業はこれを支える業務・システム基盤に関する投資をしなければならなくなるでしょう。一方で、通常、求められる変革というものは全社的です。その際の重要な要素の一つが、コストを顧客レベルまで正確に落とし込むことです。活動基準原価計算(Activity Based Costing)の運用も考えられます。

企業が既存の顧客データを掘り下げるために使用する業務・システム基盤にどうアプローチをするかはさまざまです。多くは特定のレポートから開始し、そのレポートに足がかりにアクションを展開しています。データ閲覧・検索にダッシュボードアプローチを利用するのも有用です。しかし、ここで着目すべき重要な側面は、継続的なレポーティングです。CLPの運用は一過性のものではなく、持続的に企業が成長するために、継続的な対応が求められるからです。

CLPから得られる経済的なメリットをできるだけ大きくするには、企業は経営システムのみならず、顧客への姿勢も変えなければなりません。

CLPとは進化を伴う長い旅である

多くの企業が取り入れているマルチチャネル・アプローチは、インターネットやモバイルテクノロジーが顧客の生活の中に急激に浸透した結果生まれた産物です。オムニチャネル・アプローチは、企業が顧客に複数の接点を提供する必要性によって生まれたアプローチです。

このトレンドを念頭に、Whole Foodsでは最近、カスタマー・ロイヤリティ・モバイル・アプリとグローサリー・デリバリー・サービス2を導入しました。どちらも、複数の販売チャネルを通じてロイヤリティの高い顧客をつなぎ止めるための米国スーパーマーケット・チェーンの戦略に基づくものです。

Whole FoodsのCo-CEOであるWalter Robb氏は次のように語っています。「現在の顧客は、ブランドといつでもどこでも、自分が選んだ通りの方法で繋がることを期待しています。それは、当社が描いている広くて大きなデジタルロードマップの一部でもあります。私たちは今、店舗を囲む塀を飛び越えて、拡張性のある顧客経験をハイスピードで構築しようとしているのです。」

こうした組織的調和のとれたアプローチは不可欠です。そうすることで企業は、「顧客中心の文化の中で熱心なファンを獲得しながら、顧客とのすべてのタッチポイントにおいて常に顧客の期待を上回る」ことができるのだ、とCRMソフトウェア会社Maximizer CRM3のManaging Director EMEA、Mike Richardson氏は強調しています。同氏はまた、オムニチャネル環境が、収益増加に繋がる未曾有の機会を企業にもたらすと付け加えています。

「今日のデジタル主導の市場では、ブランドの伝道者達は、何百万という潜在的顧客に評判を広めることができるのです」とRichardson氏は語っています。「顧客が満足している状態では、アップセリングやクロスセリングの実現確率もはるかに高いのです」

図3.顧客生涯価値:カスタマー・リレーションシップに帰属する将来キャッシュ・フローの現在価値

(下の図をクリックすると拡大します)

メッセージは明らかです。CLPから得られる商業的メリットをできるだけ大きくするには、企業は経営システムのみならず、顧客への姿勢も変えなければなりません。多くの企業は、未だにCLP展開における変革ステージにいるのでしょうか。それとも、すでにCLPが提供する恩恵を享受しているのでしょうか。

EYの調査により、顧客戦略や顧客ターゲティングに真剣に取り組んでいる企業ほど、CLPの展開と実装が迅速ということが明らかになりました。CLPを導入する際、企業は多くの機能の変革を迫られます。そのため、導入効果が目に見える形で実感できるようになるまでには数か月、場合によっては数年かかる場合があります。重要なのは、CLPの導入が顧客サービス課等単一部門によって行われるものではないと言う点です。それでは、コストカットも増収も必要水準で実現できません。企業は、CLPを導入するためにどうやって変革するのかについて、全体的なアプローチを採る必要があります。

導入に最も時間を要する傾向があるエリアは、組織変革マネジメントです。顧客が得るサービス経験を改善するということは、その関係をどのようにマネジメントするかを変更するということです。企業理念やブランドのバリューは明確な形でコミュニケーションされなければなりません。見落とされやすいポイントでもあります。CLPは、企業が対顧客の側面を明確に定義し、高品質なレベルでの顧客サービスに注力することを要求しています。なぜならこれこそが、長期的かつ収益性の高いカスタマーリレーションシップの基盤であるからです。

CLPが顧客とのすべての接点について構築されることと、同時にビジネス戦略が組み込まれることが何よりも重要です。もしも企業が示すゴールが、実際に顧客に届けられるサービスの姿と一致しない場合、CLPは失敗するでしょう。ここでも同様に、CLPとそれを支持するビジネス戦略成功のために全体的なアプローチが必要なのです。

顧客について、その属性、実際の動き、加えて地理的にも理解できるようになれば、企業は顧客グループに直接声が届く新しい商品・サービスの開発を始められるようになります。これがCLPのエッセンスであり、利益とコスト削減について改善を実感できるレベルの成果をもたらします。そして当然のことながら、新製品とサービスを携えて市場の先手を行くことが可能となり、そのセクターでの圧倒的な強みがもたらされます。

CLPは、企業がどの程度有効に顧客ニーズを体現できているかの尺度です。企業はすべて、顧客志向になるべきです。CLPによって企業は、サービスの提供が有効かどうか、それがコストにどのような意味を持つのか、さらに当然のことながら、個々の顧客からどのようなレベルの利益を獲得しているのかを確認できるようになるのです。

重要なのは、CLPの導入が顧客サービス課等単一部門によって行われるものではないと言う点です。それでは、コストカットも増収も求める水準で実現できません。

【出典】