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デジタル戦略: 現実世界と仮想世界を統合する

Performance デジタル戦略: 現実世界と仮想世界を統合する
デジタル化時代は、企業が市場にアプローチする方法を一変させつつあり、その結果として、企業の競争戦略も抜本的に変わろうとしています。デジタル革命がもたらした新しい環境で競争に勝つためには、企業はいくつかの重要な判断を下さなければなりません。現実世界と仮想世界の統合は、ビジネスインテリジェンスやテクノロジーとともに、企業のビジネスモデルに影響を与えてきました。変化の波に取り残されないために、企業はデジタル戦略を策定する必要性に迫られています。

著者:
Mexico Strategy Leader, Advisory Services - Performance Improvement, EY
 Gilberto Lozano
Manager, Advisory Services - Performance Improvement, EY, Mexico
 Claudio Saenz
Senior Consultant, Advisory Services - Performance Improvement, EY, Mexico
 Elba Aguirre
和訳監修:
EYアドバイザリー株式会社 パートナー ランジャン アミット
EYアドバイザリー株式会社 シニアマネージャー 四柳 勝利

多くの企業はIT戦略とデジタル戦略を混同しています。 IT戦略がITの枠組みの中で策定されるものであるのに対し、デジタル戦略が扱うのはデジタル世界と仮想世界の融合です。

図 2015年の状況
設例

今日では、多くの企業が自社にはデジタル戦略があると考え、その根拠としてITインフラを整備したこと、クラウドコンピューティングやモバイルアプリ、ソーシャルメディア、アナリティクス、クラウド、リモートセンシング、ロケーション技術といったテクノロジーを導入したことを挙げています。しかし、こうした企業はIT戦略とデジタル戦略を混同しています。IT戦略がITの枠組みの中で策定されるものであるのに対し、デジタル戦略が扱うのはデジタル世界と仮想世界の融合です。デジタル戦略は、企業が市場競争力を維持するために、デジタル化を実現するための行動計画とアプローチを策定するためのものです。

デジタル戦略とは何か

デジタル戦略と聞いて、多くの人がイメージするのはEコマースの導入でしょう。ソーシャルメディア、モバイルアプリ、クラウドサービスといった最新の潮流に乗ることや、サービスの未来やデジタル化に注目する人もいるかもしれません。多くの企業が既存のビジネスモデルやプロセスのデジタル版を作ろうと考え、自社の戦略やプロセスをそのままデジタル化しようとしました。しかし、このようなデジタル化は効率化には多少寄与したかもしれませんが、チャネルのコモディティ化が進んだために、得られた利益はわずかなものにとどまりました。つまり、仮想世界のチャネルの収益性を高めるためには、もっと良い戦略が必要なのです。

事例研究
メキシコの国家デジタル戦略


経済協力開発機構(OECD)のデジタル化指標1によれば、メキシコは情報通信技術(ICT)の導入の点で他国に大きく水をあけられ、OECD加盟国の最下位に甘んじています。メキシコ政府はこの問題を重要視し、ICTの普及を促進し、メキシコの経済、社会、政治に大きな影響を与えるために「国家デジタル戦略(National Digital Strategy)」を策定しました。

メキシコの国家デジタル戦略は、五つの領域(政府改革、デジタル経済、質の高い教育、効果的な医療システム、公共安全)で達成目標を掲げています。この他、戦略を成功させるための前提条件(イネーブラー)として、接続性、インクルージョンとデジタルスキル、相互運用性、法的枠組み、オープンデータの五つが挙げられています。さらにメキシコ政府は、「デジタルメキシコ」の実現に必要な政策と指針を策定するための戦略計画も発表しました。

EYは、メキシコ政府がこうしたイネーブラーを実現できるように、シェアードサービス戦略構想を立案しました。シェアードサービスが実現されれば、メキシコ政府は現在のICT能力を使って、デジタルメキシコを実現するための課題に対処できるようになるでしょう。

しかし、国家デジタル戦略を実行するためには次のようなハードルを乗り越える必要があります。

  • 現在の能力の把握:取組みの重複を避けるために、現在の自国の能力を明らかにする。
  • 政府組織間でのサービス提供:行政規則の順守を徹底し、適切なサービスの提供を確保するための仕組みなど、規制の枠組みを定義する。
  • ガバナンス体制の導入:高度なICTサービスを効率よく提供するための枠組みを整備する。
  • シェアードサービスモデルの導入:経済資源を最適配分し、国家デジタル戦略を遂行するための高度人材を確保する。

シェアードサービス構想は、こうしたハードルを乗り越えるための施策として、連邦組織とその他の組織を連携させ、利用可能なインフラを有効活用することを提案しています。たとえば、連邦組織の中には能力に余裕があり、余剰分を他組織に提供できるところがあります。提供可能なサービスの例としては、Eメール、サーバー、データセンター、テレフォニーなどがあります。

シェアードサービスには他にも、ICT分野のコスト削減、Eメールの管理、データセンターの空き容量の活用、クラウドサービス、テクノロジーの導入に係るコストの削減といったメリットがあります。サービスの調達のために入札を行う必要もなくなるため、調達プロセスも効率化されます。

デジタルテクノロジーを使って顧客に価値を提供するためには、システム、人、場所、モノをデジタルでつなぎ、プロセス、ビジネスモデル、顧客体験を変革する必要があります。こうした変革が実行されないかぎり、社内にデジタル能力は構築されず、単に従来のカタログをスマートフォンやタブレットなどのデバイスやアプリで代用したり、従来のマーケティングや営業活動の代わりにソーシャルメディアやアプリを活用したりするだけで終わってしまうことになるでしょう。

多くの企業は、テクノロジー投資を完結したプロジェクトと捉え、膨大なリソースを必要とするわりには、わずかな成果しかもたらさないトレンドだと考えてきました。しかし、テクノロジーを導入することがテクノロジーを導入していない企業よりも高い業績を達成する助けになることはすでに立証されています。それにもかかわらず、多くの企業はテクノロジー分野の野心的なプロジェクトを単独で評価し、こうしたプロジェクトがもたらす実質的な影響、つまりそのテクノロジーを導入することによって社内に構築される能力を評価していません。

企業のデジタル戦略は、企業戦略と一致したもの、持続可能なモデルを通じて、組織を確実に変容させるための多様な要素を含んだものでなければなりません。また、組織の現在の技術力をふまえて、改革すべき領域が明確に示されていることも不可欠です。(図1参照)

図1. 企業戦略に沿ったデジタル戦略の構成要素

(下の図をクリックすると拡大します)

そのためには、デジタル戦略は具体的な成果に着目したもの、テクノロジーを巧みに使って、システム、人、場所、モノをデジタルでつなぐものでなければなりません。デジタル戦略を実施することによって、顧客価値が創造されるか、仮想世界か現実世界かを問わず、利用可能なすべてのチャネルで一貫した体験を顧客に提供できるかも考える必要があります(図2参照)。

図2. デジタル戦略と各要素の関係

(下の図をクリックすると拡大します)

デジタル戦略を実施することによって、顧客価値が創造されるか、仮想世界か現実世界かを問わず、利用可能なすべてのチャネルで一貫した体験を顧客に提供できるかを考える必要があります。

デジタル戦略を重視すべき理由

消費者のデジタル化に対応するために、国家もデジタル経済に移行しつつあります。インターネットの利用は驚くほどのペースで広がりつつあり、2014年の数字と複合年間成長率(12%)から推定すると、現在のインターネット利用者は30億人に達します2。しかも、その数は新興国での人口爆発と携帯電話やスマートフォンの急速な普及に伴って、加速度的に増え続けています。2015年にはモバイル端末契約件数は71億を超え、そのうち27億をスマートフォン経由の接続が占めるようになるでしょう。アクティブなモバイル端末向けソーシャルアカウントの数も16億8000万に達する見込みです3

しかし、デジタルチャネルの利用が進むペースは、その国のテクノロジー普及度に大きく左右されます。ブラジル、中国、メキシコ、ベトナム、フィリピン等の開発途上国では、デジタルチャネルへの即応性が急速に高まりつつあります4。これらの国はデジタル経済の発展において重要な役割を果たすようになるでしょう。これらの国からは今後、10億人のネットワークユーザーが現れ、現在のユーザーとは異なる方法でネットワークを使うようになると見られているからです。いずれにしても、インフラを強化し、顧客のニーズに確実に応えていくことは不可欠です。

また、デジタル経済では国によって成長の速度が異なります。デジタル経済の競争に勝つためには、企業はアプローチの改革とカスタマイズに、政府はインフラの整備と金融包括の促進に取り組まなければならなくなるでしょう。

メガトレンド:成長の加速要因

メガトレンドもデジタル戦略の策定を企業に促しています。これらのメガトレンドは、消費者の行動、流通チャネルの変化、政府のデジタル化、企業の顧客価値創造を支援するIT化と関連しています。つまりデジタル化の促進要因が、デジタル戦略の導入を企業に迫っているのです。デジタル化の流れに乗ってデジタル戦略を策定し、顧客とビジネスのために物理的資源とデジタル資源を統合するかどうかの判断は各企業に委ねられています。

消費者の新しい購買決定プロセス

今日の消費者は、テレビ、インターネット、ソーシャルメディアなど、多様なコミュニケーションチャネルから入手した大量の情報をもとに賢明な購買選択を行うようになっています。これらのチャネルは一方向から双方向へ、そして現在はインタラクティブなものへと進化しています。その結果、インターネットは購買サイクルに組み込まれ、(オンラインレビューやブログを活用した)情報収集、価格比較、購入に用いられるようになっています。

主要な消費者層はすでに消費財メーカーが展開する従来型の広告に頼ることなく、商品の購買決定を下しているかもしれません。現代の消費者はパッケージやコマーシャルの文言よりも、インターネット上の情報源を信頼するようになっています。この変化は、ソーシャルメディアで積極的に発言することで顧客を会話に誘い込む機会を企業に提供しています。

流通チャネルの変化

流通チャネルと小売業は大きな変化のさなかにあります。新しい販路が次々に登場し、従来型の店舗は市場シェアを失いつつあります。大型ショッピングモール、スーパーマーケット、ディスカウントストア、コンビニエンスストアは、大規模な小売チェーンが進出していない郊外や農村部の消費者に照準を合わせはじめており、例えばメキシコでは、先進的なビジネスモデルを持つコンビニエンスストアが店舗網を全国に広げ、従来型の小規模店舗と競争するようになっています。

一部の企業は、顧客のニーズに応えるためにオムニチャネル戦略を採用し、すべてのチャネルやデバイスで一貫性のある最高の購買体験を提供しています。例えば、現在では多くの顧客が複数のチャネル(モバイル、デスクトップ、タブレット等)でパーソナライズされた体験をしています。オムニチャネルはマルチチャネルと混同されがちですが、顧客が経験する体験はまったく異なります。

オムニチャネルのアプローチを選択するなら、テクノロジーの活用は避けて通れません。現在の市場ニーズに応えるためには、テクノロジーを使ってサプライチェーンに関わるすべてのプロセスを統合する必要があります。その結果、eビジネスは企業取引の戦略的パートナーとなり、顧客とサプライヤーの両方に影響を及ぼしています。

流通チャネルの変化は、企業の流通戦略、特に消費財企業の流通戦略に大きな影響を及ぼす可能性があります。今日の企業にとって、流通は能力と強みの重要な源泉であり、適切な場所で適切な価格の商品を顧客に届けるためには、流通チャネルの変化を考慮しなければなりません。

政府のデジタル化

政府は、行政サービスのデジタル化を進めることで市民のニーズに応えようとしています。情報通信技術(ICT)を統合戦略の一部として戦略的に活用することで、価値を生み出そうとしているのです。デジタル政府のネットワークには、公共組織、非政府組織、企業、団体、個人が参加しており、そのすべてが政府の提供するデータや双方向サービスを利用することができます。

政府がデジタル戦略を導入するメリットには、次のようなものがあります5

  • 政府のプロセスとオペレーションの透明性、開放性、包括性が向上していることを証明できる
  • ファイナンシャル・インクルージョンが促進される
  • 誓約と市民参加が促進される
  • 公共セクターにデータ志向の文化を醸成できる
  • ガバナンスが強化される

ITトレンドが創造する価値

ITトレンドも、現実世界のデジタル化をあらゆる面で促進しており、多様な状況や環境でモバイルユーザーのニーズに対応することが重視されるようになっています6

  • IoT(The internet of things)
  • 高度で広範かつ不可視なアナリティクス
  • クラウドとクライアントコンピューティング
  • ソフトウェアで定義・制御するアプリケーションとインフラ
  • リスクベースのセキュリティとセルフプロテクション

デジタル戦略の策定

デジタル戦略は次の三つのフェーズに注目して策定する必要があります。

フェーズ1 機会の識別:
投資価値を判断するために、ビジネスケースを使ってクライアントのテクノロジー需要を評価します。

フェーズ2 デジタル戦略の構造の決定:
以下を作成し、その結果をもとに診断の準備をします。

  • マルチチャネル戦略
  • 戦略を実施するためのロードマップ
  • 企業の戦略、クライアント、多変数・集約型事業モデルに沿ったビジネスケース

フェーズ3 企業の成熟度評価:
企業の現在の能力と企業のクライアントの体験を診断し、業界慣行やベストプラクティスとのベンチマーク分析を行います。

図3. デジタル戦略の利点

(下の図をクリックすると拡大します)

デジタル化の流れに乗ってデジタル戦略を策定し、顧客とビジネスのために物理的資源とデジタル資源を統合するかどうかの判断は各企業に委ねられています。


【出典】