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イノベーションと変革をもたらすPurposeの力

イノベーションと変革をもたらすPurposeの力
成功している企業は、自社のPurpose(※)を経営戦略と一体化させています。しかしどのようにして企業のPurposeを明確にし、その後の戦略的変革につなげることができるのでしょうか。
本稿ではEYの変革手法であるPurpose-led Transformationが求められる背景を示し、より良い社会を構築する上でどう役立つのかを示唆します。

著者:
EY US アドバイザリーサービス
グローバルストラテジーリーダープリンシパル Cheryl J. Grise
ストラテジー、エグゼクティブディレクター Valerie Keller
和訳監修:
EYアドバイザリー株式会社
シニアマネージャー 三浦 貴史

成功している企業は組織の信念(何を良いと信じ、どのようにふるまうか)が商品やサービス以上に重要になってきていることを理解しています。

※Purpose: 本稿では、単なる「目的」ではなく、企業・組織が存続する社会的目的、存在意義という意。企業の本質的大義。


現在、我々は新しいビジネス環境の中で企業を運営をしています。それは、Purposeが中心となる企業運営の新しい流れです。 ダーウィンの進化論1 的にいえば、人間の本質的なニーズを満たすPurposeを持つよう進化した企業こそが、生存競争に生き残り、繁栄することができるのです。

volatility(変動性/不確実性)、velocity(情報伝達スピードの高速化)、visibility(ソーシャルメディアによる企業活動を含む情報の可視化)という3つの力が存在する環境2 では、企業の成功は継続的なイノベーション及び変革能力によって決まります。しかし、これは言うほど簡単に実現できるものではありません。2000年にフォーチュン500に入っていたトップ企業の実に40%は、2010年までにそのリストから消え去りました。残念ながら、変革の多くは失敗するという現実があり、EYの調査によれば、80%以上の変革施策が失敗に終わっています。3

しかし、EYはグローバル企業の経営幹部と共に仕事をする中で、Purpose-led Transformationによる企業変革は成功確率が高いと確信するようになりました。また、Purposeを企業運営の中心に置く(Purpose-led)組織は、イノベーションを生み出し成長に向けた課題を解決するためのより優れた能力を備えていることもわかってきました。以降でその理由を述べていきます。

Purposeが利益をもたらす

Purposeを中心とした戦略が求められる背景としては、組織運営へ影響を与える複数のメガトレンドの存在が挙げられます。

  • グローバル化
  • 技術変革
  • 世界的な景気後退
  • 資源枯渇への懸念
  • ソーシャルメディアの台頭

これらによって、企業に対して期待されることは劇的に変化しました。各国政府の予算が縮小するにつれて、持続的な経済の発展や社会問題の解決のために民間企業の関与が期待されるようになってきたのです。

このような企業の社会的位置付けの見直しは、一般的なものになってきており、「企業は株主に利益をもたらすことができればそれで良い」と考えている人の割合は、世界でわずか6%程です。4 つまり、顧客、規制当局、従業員、投資家は企業にそれ以上の事を望んでいるのです。成功している企業は、組織の理念 (何を良いと信じ、どのようにふるまうか)が製品やサービス以上に重要になってきていることを理解しています。

ソーシャルメディア等によってもたらされた情報の透明性と相互接続性(人々がつながることができる状態)という2つの潮流は、グローバル企業ブランドに大きな影響を与えるようになりました。例えば、サプライヤーの労働環境や環境汚染などのスキャンダルによってブランドが毀損されるというリスクが生じているのです。その結果、バリューチェーン全体への責任を企業が負うようになってきています。しかし、Purposeを重視する動きは、このようなマイナスのリスクを避けることだけを目的としているわけではありません。Purposeが成長を促進する力があることは数字にも表れています。

Purposeに根ざしたブランドは、顧客の獲得と関係保持をの面において成功しています。これは直感的にわかることかもしれませんが、人は自己肯定をもたらすものを買い、自分が信頼する人々とビジネスを行う、という行動科学にも基づいています。5 Simon Sinek氏が、ニューヨークタイムズのベストセラー「Start with why(日本語版:Whyから始めよ!)」の中で、「人は自分たちが"良いと思っていることを共有できる相手"とビジネスをする。あなたが"している事"を買うのではなく、あなたが"それをしている理由"に基づいて買うのである。」と述べています。6

新興国市場は、中間層の消費拡大が期待されるため、注力市場となっていますが、実はこれらの新興国がPurposeを持つブランドに対する需要が最も高い市場です。7 ある研究によれば、世界の消費者の87%が「企業はビジネスの問題と同等以上に社会問題を重視すべきだ」と考えています。一方、「企業は、社会問題には慈善活動を行えば十分だ」と考えているのは、わずか7%に留まっています。8 つまり、Purposeによって効果的に顧客を惹きつける為には、商品やサービスそのものを通して環境もしくは社会に与えるインパクトと共に、Purposeが企業のDNAに内在している必要があるのです。UnileverのCEOであるPaul Polemanは、企業の社会的責任(CSR)を超えて、Purposeを会社のオペレーティングモデルの一部とする取組みを主導しています。取組みの中心は、食物の安全性、公衆衛生、森林保全です。
「(社会的)課題は我々のビジネスを促進します。何故なら我々はソリューションを提供するからです。」「衛生という課題であれば、我々は手洗いのLifebuoy(石鹸ブランド)を提供できますし、女性の美というテーマであれば、我々はDoveを提供できます。その意味で、全てのブランドは社会的意義を持っているのです。」9

企業への期待がこのように変化したことから、Purposeの意識(つまり、"What(商品やサービス自体)"よりも、"Why")を企業が持たない場合は、顧客や従業員が離れていくことになるでしょう。顧客は「購入」によって企業への支持を表明しますが、従業員は「所属」によって支持を表明します。今日、熾烈な人材獲得競争がグローバルで起こる中、タレント(人材)の「所属」を維持することは一大関心事です。従業員が高次のPurposeにつながっていると感じることができている企業は、従業員の定着率が通常の3倍以上に上る傾向にあります。10 そのような組織では、従業員に「単に仕事をする」のではなく、「人生の仕事をする」という意識を持たせることができるため、よりエンゲージド(組織に誇りを持ち仕事に取り組んでいる状態)かつ生産的な従業員を抱えることができるのです。ミレニアル世代(1980年代-2000年代生まれの世代)が持つお金と人生の意味、利益とPurposeの融合は「現実的理想主義」と呼ばれてきました。これは、複数の面でPurpose-ledに通じるものがあり、現実的な企業はミレニアル世代が2020年までに世界の労働力の50%にまで達することを視野に入れ、Purposeに関心を寄せています。11

Purpose-led transformation:情熱を活かして

ビジネスにおいてなすべきことは明らかです。リスクを減らし、成長を実現し、財務的な業績を拡大し、顧客と従業員が離れていくことのないように維持し続けることです。Purposeはその手助けとなりますが、それは言うほど簡単なことではありません。PRやCSRのような「ブランドの約束」程度のPurposeでは意味をなしません。そのような企業は押しつけの企業目的(Why)は持っていても、それを実践(How)に活かせないのです。成功している会社はこのことを理解していて、Purposeを戦略の中核に据えています。企業がPurpose-ledに変わることで、アイデンティティに変化が生じ、能力の向上に繋がります。企業のPurposeが 「どこで戦い、どのようにして勝つのか」という意思決定のレンズとなるのです。それが、イノベーションと企業変革を推進する要素となります。

デュポンは素晴らしいケーススタディといえます。CEOのEllen Kullman及び経営陣は、投資のための戦略的フレームワークとして、三つのメガトレンドを特定しました。12 世界人口が70億人以上に増加するにつれ、①食糧不足 ②エネルギー不足 ③環境問題という三つの主要な問題が発生します。これらの問題への取り組みを指針として、デュポンは200年にわたる伝統的な"化学"会社から世界的な"科学"会社へと変貌しました。「人々の生活をより豊かに、より安全に、より健康にするという、世界の直面する最も重大な問題を解決する、持続可能で革新的、かつ市場主導のソリューションを見出す」13 と投資家たちにそのPurposeを明言しました。この世界を育み、保護し、繁栄させるという情熱は利他的な行為ではありません。デュポンは高成長と価値向上へのアプローチとして、科学的解決策に的をしぼって農業生産の増加、石油燃料への依存減少、生物保護を目指しているのです。14,15 彼らの総合的なアプローチには、例えばゴミや石油燃料の使用を減らすといった戦略やバイオ燃料のサポート、光起電力や他の再生可能エネルギー、生活を守る耐ハリケーンの建築材の発明といった戦略が含まれています。16 ビジネスポートフォリオを戦略的に定義・精査することに加え、デュポンの強力なPurposeは、プライベートセクター・政府機関・NGOを巻き込みながらビジネスモデルのイノベーションを促進しています。そして同社の企業変革にも勢いを与えています。17

この規模での変革は大きなチャレンジであり、組織構造、プロセス、テクノロジーそして人の変化を必要とします。その中でも、最も難しいのは人です。マインドセットと行動は変化に対して反発的で、Peter Druckerのよく知られた格言の通り、「カルチャーは戦略をランチとして食べてしまう(カルチャーを変えないで戦略は実現できない)"culture eats strategy for lunch"」のです。この変革に取り組むにあたり、多くの場合は手始めに緊急性や危機感の醸成が行われます。しかし、この醸成された喫緊の課題認識に加え、併せて必要なものは実現しようとする強い情熱です。その情熱が、変化に向けて動き出さざるを得ないビジョンを生みだし、そのビジョンが人々を惹きつけ、変化に対する恐怖心や怠惰を打ち砕くのです。コスト削減プログラム、オペレーティングモデルの変化、そしてプロセス再設計はそれぞれ異なる反響を組織にもたらしますが、それらが全身全霊をかける価値がある目標への第一歩であるとわかった時、変化に対する抵抗は弱まることになるでしょう。

意義の大きいPurposeを組織と不可分なものとすることで、製品やサービスのイノベーションと共にビジネスモデルのイノベーションも生み出 されます。例えばUnileverでは気候変動などの問題解決に注力し、"製品"から"Purpose"へ観点を変えることによって顧客視点の発想と、ビジネスエコシステムを再構築する機会を得ました。Unileverは、環境負荷を減らしながらビジネス規模を二倍にするという野心的な目標を達成するため、技術をクラウドソーシングするオンラインプラットフォームによるデジタルイノベーションを活用しています。18 また、これらのアイディアを現実的なソリューションに落とし込むとき、業種を超えたパートナーシップが必要となるので、ビジネスモデルのイノベーションが促進されます。例えば、低コストで持ち運び可能な水を作るUnileverの水質浄化システム"Purelt"を立ち上げる為、インドのNID(National Institute of Design)、国立環境工学研究所(National Environmental Engineering Research Institute)、TataグループのTata Elxsi engineeringの子会社、そしてEYとのパートナーシップを結びました。19

Purposeは、よりアジリティ(俊敏性)が高い組織となるための指針を与えてくれます。資源が限られ、すべてが繋がった世界で、私たちはどのようにして抜本的なイノベーションを行えば良いのでしょうか。住みよい都市、食物-水-エネルギー連鎖の課題、高齢化社会におけるヘルスケアといった課題の解決のために、破壊的なテクノロジーやビジネスモデルはどのように役に立つのでしょうか。どのような(What)製品やサービスが永続するのかではなく、なぜ(Why)永続するのかに着目することで、イノベーションを起こす機会が生みだされます。またこれによって、様々なタレントを一つに結び付け、Collective genius(各々の専門分野において突出した才能を集めれば、一個の天才をも凌ぐ存在を作り出すことができるという考え方)を実現するカルチャーを醸成・維持することのできる組織への進化が促進されます。

EYでは実際にPurpose-led transformationを実行しています。EYのPurposeである"より良い社会の構築を目指して - building a better working world"( ビジネスにおける信頼と自信、持続的成長、あらゆる形でのタレントの成長、更なるコラボレーションのできる社会)にコミットしています。EYのCEOであるMark Weinbergerは2014年にダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、次のように発言しました。

「皆さん、Purpose-ledの会社にならなくてはなりません。EYでは17万5千人の人が働いており、更に成長しています。私たちはPurposeである"より良い社会の構築を目指して"を採用時に伝えています。人はうまくやりたいし、良い事をしたいと思っています。自分たちが世界にどう変化を与えることができるのかを知りたいと望んでいます。コト・モノは変化する可能性がありますが、会社のPurposeは個々の製品やサービスに普遍的に息づいているはずです。」20

PRやCSRのような「ブランドの約束」程度のPurposeでは意味をなしません。そのような企業は押しつけの企業目的(Why)は持っていても、それを実践(How)に活かせないのです。

新しい企業のあり方

今日の様々な世界的な課題は、私たちに大きな挑戦を強いると同時に、ユニークなチャンスも与えてくれます。消費者は、これまで以上に多くのものを求めています。彼らは単なる消費者というだけではなく、市民であり、企業が社会や環境改善へ貢献することを期待しています。また、従業員も同様です。"人的資源"は、単なる労働力以上に、価値を創出及び破壊をする上でのステークホルダーとなります。労働が"素晴らしい何か"のために行われる時、彼らのパフォーマンは上がり、創造性が発揮されるのです。従って、企業は、"企業のあり方"の変革に注力するべきなのです。収益改善や次の四半期売上のためのコスト効率化といった変革ではなく、何かそれ以上のゴールを持つ変革が最も成功しうるものなのです。

成功の鍵は情熱を戦略的な変革へ変えることであり、新しい方法でビジネスを運営し、大きな目標を実現するために、サプライヤー、規制当局、顧客、従業員からなる総合的なエコシステムとの繋りを築くことです。弊社戦略チームは他のEYチームと共に、主に以下の3つの側面からクライアントの変革を支援しています。

  1. イノベーション促進
  2. 産業/市場成長における課題への対応
  3. 定量的価値を創出する戦略実行支援

この3つの変革を支援するため、弊社はPurpose-led transformationsの手法を用います。なぜならば、Purposeは①イノベーションを生み出し、②市場における成長課題を解決し、③戦略実行を促すからです。我々はこの手法を用いて、クライアントのPurposeの定義及び活性化を支援します。そして、Purposeによる変革でクライアントを支援することが、弊社のPurposeである"より良い社会の構築を目指して - building a better working world"に繋がっているのです。

関連セミナーを開催致します。詳細は下記をご覧ください。

【脚注】

  1. C. R. Darwin, The Origin of Species, 1859.
  2. "Organizational resilience: the relationship with risk related corporate strategies," EY, 2013, embamexウェブサイトへ accessed June 2014.
  3. C. Goldwasser and M. L. Edwards, "Change 3.0: using social media to engage your workforce," Performance, Volume 6, Issue 1, 2014.
  4. 2013 Cone Communications and Echo Global CSR Study, 2013, embamexウェブサイトへ accessed June 2014.
  5. "Second wind: some traditional businesses are thriving in an age of disruptive innovation," The Economist, June 2014, embamexウェブサイトへ accessed June 2014.
  6. S. Sinek, Start with why: how great leaders inspire everyone to take action, 2011.
  7. A. Hegland, "Purpose bull markets," Edelman goodpurpose 2012 Global Consumer Survey, April 2012, embamexウェブサイトへ accessed June 2014.
  8. Edelman goodpurpose 2012 Global Consumer Survey, Edelman Insights embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  9. J. Confino, "Interview: Unilever's Paul Polman on diversity, purpose and profits," The Guardian, October 2013 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  10. T. Schwartz and C. Porath, "Why you hate work," The New York Times, May 2014 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  11. D. Burstein, Fast future: how the Millennial generation is shaping our world, 2013.
  12. R. Kirkland, "Leading in the 21st century: an interview with Ellen Kullman," McKinsey, September 2012 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  13. "Our purpose" statement on DuPont website embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  14. "DuPont CEO Ellen Kullman's four principles for moving ahead during turbulent times," The Wharton School of the University of Pennsylvania embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  15. "High-growth, high-value" is CEO Ellen Kullman's vision for DuPont embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  16. "DuPont CEO Ellen Kullman's four principles for moving ahead during turbulent times," The Wharton School of the University of Pennsylvania, June 2009 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  17. CNBC interview with Jim Borel , Executive Vice President, DuPont, "Addressing food security in Sub Sahara Africa, May 2014 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  18. J. Makower, "Why Unilever is betting on open innovation for sustainability," GreenBiz.com, March 2012 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  19. J. Makower, "Why Unilever is betting on open innovation for sustainability," GreenBiz.com, March 2012 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.
  20. V. Keller, "Punched in the face: a new leadership contract emerges," Huffington Post, January 2014 embamexウェブサイトへ , accessed June 2014.